異国の地で触れる優しさは、旅の疲れをも癒す温かさだ。

 

ついにニューヨークに到着!

…したものの、約13時間のフライトを経た私達はもうクタクタだった。

 

時刻は夜9時。

ターンテーブルを流れてくる、大は小を兼ねると思って選んだLサイズのキャリーバッグはやはり大き過ぎて、受け取るのも嫌になる。

しかし自らロストバゲージさせるわけにもいかないので、重たい身体で重たい荷物を受け取ったのだった。

 

 

空港を出て、マンハッタン行きのエアポートバスに乗るためにバス乗り場を彷徨う。

しかし、待てど暮らせど黄緑色のバスは現れない。

予定時刻よりも遅くなってしまったので、もしかしたらもう便がないのかもしれない。

しびれを切らした私達は、わりと早めにバスを諦めて、今度はタクシー乗り場に向かった。

 

すると、なぜかタクシー乗り場に、探していた黄緑色のバスが停まっている。

…アメリカならではの適当さなのか、ただ単に私が間違っていたのかは謎だ。

とにかく安堵した私達は、荷物を引き摺ってバスの方へ駆けた。

 私達はこのあと、初めての異国の地で、人の温かさにいたく感動させられることになる。

 

 

係員のおばさんとお兄さんになんとか目的地を告げ、返ってきた「No plobrem!」という言葉に再び安堵する。

こちらに来て初めて支払いをしたバスのチケット代は、separateと伝え忘れ、one unitとして二人分の金額を一枚のカードで切られてしまった。

 

運転手の男性に荷物を預け、私達は前から四列目の席に並んで座った。

乗客はまばらで、明日の天気予報が雨だったせいか湿度が高く、窓ガラスが少し曇っている。

バスに乗れればこっちのもの。これでペン・ステーションまで辿り着けるのは確実だし、あとはそこから地図通りに歩けばホテルに到着するはず。

安心した私は、少し硬いバスの座席に疲れた体を預けた。

 

座席の隙間から、前の席が見えた。

私と同じ年くらいの男の子で、日本人だ。

この人はマンハッタンに住んでいるのだろうか。

 

働かない頭でそんなことを考えていると、ぼんやりと見ていた窓ガラスの外にキラキラとしたものを見つける。

道路の案内標識を見ると、そこには確かに「Manhattan」の文字が。

外のキラキラはまぐれもなくマンハッタンの夜景で、私がずっと見たかったものだ。

ぼうっとした頭が覚醒し、思わず目を大きく見開いた。

 

人間って、本当に感動したときは言葉が出なくなるのだと知った。

しばらく声も出ず、そのキラキラに見入ったあとは、自然と顔が綻んだ。

 

 

バスは街を進み、ひとつめの降車場所、グランドセントラルターミナルへ。

31丁目にあるHotel Wolcottに宿泊する私達は、ここで降車を試みた。

運転手の彼が降ろしてくれた荷物を受け取り、スマホの地図を見せてホテルまでの道を尋ねる。

地図をしばらく凝視した彼は、笑いながら英語を発して、親指でバスを指している。

どうやら、「ここへ行くにはペンステーションが一番近いよ。もう一度バスに乗って!」と言っているようだ。

なんとなくだが理解した私達は、自分達の間抜けさと、すでに荷物を再び積み込んでくれている彼の優しさに、ひたすら笑って「Sorry」と「Thank you」を繰り返した。

  

再び乗車した私達は、今度は一列目と二列目に分かれて座り、それぞれ窓に張り付いて、マンハッタンの光に見入った。

 

 

ふたつめのポートオーソリティー・バスターミナルで、私達以外のすべての乗客が降車した。

もちろん、三列目に座っていた日本人の彼も。

バックパックをひとつ背負って、颯爽とマンハッタンの街に消えていった彼が、私の目にはひどくかっこよく写った。

 

 乗客達を見送り、バスに戻ってきた運転手の彼が「もう一度君の地図を見せて」と私を振り返る。

小さな子供のように窓に張り付いていた私は、慌ててスマホを差し出した。

しばらく地図を見つめた彼が再び振り返ると、私の手元に戻ってくるスマホ

 

前に向き直った彼はバスを発車させ、私は気を取り直して外の景色に見入った。 

見たことないくらい煌びやかなマクドナルドが、何軒もあったのを覚えている。

 

 

少しして、バスは最後の降車場所のペン・ステーションを通り過ぎた。

驚いたのも束の間、すぐに窓の外に、私達が目指すホテルがある31stの標識が見えてくる。

大通りに比べて人通りが少ない道で、バスは停車した。

 

笑顔の彼に促されて外に出ると、目の前の建物にはHotel Wolcottの文字。

驚いて彼を振り返ると、彼の後ろに、緑の電飾を静かに光らせてそびえ立つエンパイア・ステート・ビルディングが目に入った。

「エンパイア?」

声にならない声で、英語にならないカタカナで彼に聞くと、彼は笑顔のままで「Yes!」と答える。

彼の優しさと、何年も恋い焦がれたエンパイアがついに目の前にある感動と。

ただひたすら感嘆の声を上げ、気持ちが伝わるようありったけの笑顔で、彼に「Thank you」を繰り返した。

「Have a nice time!」

そう言ってバスで去っていった彼に、心の中でもう一度「ありがとう」を言った。

ニューヨークで感じた、一番最初の温かさだった。

彼以上の優しさを持った空港バスの運転手は、きっといない。

 

 

窓からエンパイアが間近に見える12階の部屋は、私達をこの日一番興奮させた。

部屋の雰囲気や設備にも一通りはしゃいだあと、スーパーを見つけるべく、真夜中だというのにホテルの近所をうろつき始めた。

 

すぐに24時間スーパーを見つけ、早速買い物を始める。

ケースの中のアイスクリームやレッドブルの大きさに、いちいちはしゃいだ。

 

それぞれ選んだ夜食のお菓子とミネラルウォーターを持ち、セルフレジへ向かう。

支払いの画面でもたもたしていた私達に気付き、横から画面操作を手伝ってくれたのは、すらっと背が高い30代くらいの私服店員の男性だった。

無事に支払いが完了し、少し離れた場所で別の作業をし始めていた彼に「Thank you!」と笑顔を向けると、彼は微笑んで親指を立ててくれた。

 

怖いイメージがあったニューヨークの人って、こんなにも異国人に親切なのか。

見知らぬ土地に不安しかない私達にとって、その温かさは、ひどく心を打たれるものだった。

 

 

その日の夜、想い焦がれたエンパイアに見守られながら、幸せな眠りについたのだった。

 

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